ダメなのは知ってるけど

ささくれ千切っちゃったりする

だれでも簡単に株で大金持ちになる方法

たまたまだが、株で一財産を築いた人と知り合うことができた。

彼は金持ち特有の慎重さで本名を明かさない。仮に彼の名をエヌ氏としよう。エヌ氏は私に向かって「株で金を得るというのは、実に簡単な行為で誰でもできる」と口を動かした後、しまったという顔をした。慎重な彼としたことが、珍しく安居酒屋で酒を飲み、酔った勢いで口を滑らせたのだ。

私はその言葉に食い下がった。簡単とはどういうことだ。秘訣を教えて欲しいと。彼はその場を穏便に収めるためにも、週末に自宅へ訪問するように促した。そこでゆっくり株の儲け方について教えてくれるというのだ。

初めて伺うエヌ氏の自宅は立派なものだった。けっして派手ではなく、一見すると一般的な民家のようなのだが、使われている材料が違う。彼はけっしてあこぎなことをしてお金を稼いだわけではないが、金持ちと言うだけで、人から妬みを受けると言う事を良く知っていたのだ。

座り心地のいいソファーに腰掛け、用意されていたよい香りの紅茶を前に私はエヌ氏へと質問を開始した。

「さて、教えてもらうよ。君はいったいどうやって株で大金を得たんだい?デイトレード?特殊なチャートの読み取り方を発見したのかい?それとも、なにか良い情報源でもあるのかい?」

「まあ、落ち着きなよ」

エヌ氏は紅茶を口に含み、話し始めた。

「何も、特殊なことは一切しちゃいないよ。君達の言ったように行動しただけさ」

私は顔をしかめた。

「君達ってなんだい?それに特殊な事をしていないって、運が良かっただけだと言いたいのかい?」

「違うよ」

エヌ氏は笑いながら話を続けた。

「世間の言う通りに行動しただけさ。私が若い頃、これからは必ずコンピューターの時代になる。一人一台パソコンを持つ時代が必ず来ると言われていた。同世代の君も覚えているだろう?」

私はうなずいた。たしかにそうだ。そう言われていたし、私もそうなると思っていた。

「だから、私はパソコンに関係した会社の株を買ったのさ。その次はインターネットだよ。必ずインターネット社会が来ると皆が言っていた。そして本当に世界中に普及した。わかるだろ? そのときもインターネット関連の株を買っていたのさ。それと同じぐらいの時に、携帯電話も1人1台に必ず普及すると言われていたから、もちろん携帯の株も購入したよ」

私は同じときにパソコンを購入し、必死になってインターネット回線を自宅へ引き入れて、携帯の契約をしていた。というわけだ。私は青ざめた顔でエヌ氏の言葉に割って入る。

「しかし、しかしパソコンもインターネットもすべてが儲けに繋がった訳ではないだろう?普通に株を買って失敗がなかったはずがない。会社の選び方になにか特殊なテクニックがあるはずだ。それを教えて欲しい」

彼は笑いながら言った。

「どうしても、特殊なことにしたいようだが、私が買った銘柄は、そのとき、その業界で一番有名だったものを単純に選んだだけだよ。携帯会社などは数社だけだったから全て買ったがね。それにね、たしかに儲けに差はあったが、仮に1社だけを選んでいても、結局買った金額から数倍にはなっていたよ。買うだけでよかったんだ」

エヌ氏が教えてくれた銘柄を見て愕然とした。確かに株価が爆発的に盛り上がる前からその業界では名の通った会社の株をいくつか購入していただけであった。そして携帯会社に至っては、購入していればなんでも儲かったのだ。

エヌ氏は更に続ける。

「私が少し昔に生まれていたら、きっと自動車関連の株を買っていたはずだ。たしかその時も、必ず一家に一台、自家用車の時代が来るといわれていたからね。わかったかい?私はなにも特殊なことはしていない。むしろ誰にでも出来ること、みんなが言っていた事を忠実に実行したに過ぎないのだよ。ネット通販に電子書籍、思いあたることは多々あるだろ?」

私は、今まで如何に自分がチャンスを逃し続けていたかという事を知って、更に愕然となった。たしかに、エヌ氏の言うことは正しい。私はパソコンの普及も、インターネットの普及も、携帯電話の普及も、当たり前のように予見していたのだ。エヌ氏と同じようにTV番組などから流れてくる声、これからはコンピュータだ、インターネットだ、携帯だ、に納得していたでないか!

私は搾り出すような声で問いかける。

「エヌさん。今からでも遅くないですよね?」

「もちろん!今からだって株を買えばいいのです。簡単です。皆が思っているようにするだけで、あなたも株で利益を手にすることが出来る」

「なにを・・・何を買えばいいのでしょう?」

「~~~~~ですよ。~~~~!あなたも知っているでしょう。わかっているはずだ。これからは絶対に~~~の時代です」

エヌ氏の言葉が聞き取れない。なぜだろう。肝心なところが。

「あなた達はいつだって肝心なところが見えない聞こえない。そうですね。きっとあなたにこの声が届くのはきっと5年後でしょう。5年後に、いつものように後悔してください。あの時ああしていれば、おれにはわかっていたのにと。いつだってあなたが気が付くのは後、後なんですよ。すべて終わったあとに」

 

~~~~を買わなくては、~~~~の株を

これからは~~~~~の時代

みんなが言ってる

これからは~~~~~の時代がくる。そう確実に!

その未来は、確実に。

大金が確実に!

 

 

世界一やさしい 株の教科書 1年生

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