よお、忙しそうだな。忙しいのは結構だけどさ、ほら カビ が生えてきてるぞ。まあ、お前の所はかなり湿っぽいからな。そういう所は カビ が生えやすいんだよ。今のうちにきっちりしとかないとドンドン増えるからな。気をつけろよ。
おいおい、言ったじゃないかよ。しっかり駆除しろってさ。蔓延しちゃってるじゃないかよ、カビ が。ちょろっとだったのが、完全に目立つぐらいに増えちゃってるじゃないかよ。まあ、うん、今からしっかりするってんなら、うん、まあ。がんばれよ。
あー、やっぱり、手遅れか。一度増えだすと際限無しだな。胞子を近場に飛ばしてドンドン増えやがってさ。でも、この辺じゃこんなことになってるのはお前んとこだけだよ。確かにこの辺で一番湿っぽい環境だったのには同情するけどさ。それにしても、やっぱりどんな手使ってもやっても駄目だったか。生命力ってのは恐ろしいね。水を絶っても駄目、逆に乾燥に強いのが出てきたってか。そういや色々種類が増えてるな。やたら胞子を飛ばす奴、その場から動かず環境を作りかえる奴、手当たりしだいに広がる奴。まあ、でも、いくら胞子を飛ばしても、こっちは遠いからな。まあ俺に迷惑かからなきゃいいけどね。なんつってゴメンごめん。
ああ、ああ、ああ、ああ、ひどいね、こりゃ。ほぼほぼ全域 カビ まみれじゃん。なんならもう カビ 育ててるよね。えっ?気持ち悪いから減らしたいけど、もうどうにもならないから諦めたってか。うーん。それにしても恐ろしい繁殖力だね。でももう全域覆っちゃってるからこれ以上増えられないね。やたら胞子飛ばしまくってるやん。おーい聴いてる?
へー、胞子に固い殻を付けて保護しながら思いっきり飛ばすんだ。やたら距離は飛ぶようにはなってるけど到底ここまでは届かないから結局は カビ 同士の勢力争いだね。それにしても全域 カビ に覆われちゃってもう話すことすら出来なくなったな。お前とは歳も近いし、離れてるとはいえど何とかお互いの顔が確認できる距離なわけだし、一番仲の良かったお前が カビ まみれとは寂しい話だよ。まったく本当に憎くて気持ち悪い カビ だよ。
うわーうわー、おーい、おーい!地の字やーい、聴こえないのか?もう話せないのか?なんとかしてくれ!うわー、うわー、こっち来た!こっちまで来た。固い殻に覆われた胞子がこちらにやってくる。近くを胞子が掠めて飛んでくる。こっちにはお前らの好きな湿り気は無いぞ!来るな!来るな!来ても湿り気は無いぞ。ああ、でも、お前らは恐ろしい繁殖力と適応力で、自らを、環境を、作り変えて増えてきた。きっとこっちでも何とかして上手く増えるのだろう。あっという間に俺の所も、ワサワサと。一番仲良しだった地の字のように俺もなるのか。まったく 生物 ってやつは本当に忌々しい。ごつごつして美しかったアイツは緑色のワサワサに染まり、気持ち悪いやつらが表面を這い回っている。おれもああなるのか?きっとなるのだ。
1974年 バイキング1号が火星への着陸に成功した。