スーツ姿の男が、漢字二文字の書かれたボードを頭上に掲げている。
ついに新しい元号が発表されたのだ。
掲げられた文字を読んでもピンとこない。新しい元号の発表に立ち会うのはこれで二度目だが、前回も違和感があったことを覚えている。なんせ初めてみる単語なのだ。しかし、こういうものは使ってくるうちになんとなく馴染んでくるものだということを経験上悟っている。あれだけ違和感のあった前の元号が、今はしっくりきているのだから。
携帯型のモニターから、音声と映像が新元号についての情報を盛んに訴えかけてくる。
新元号は、全力を持って事に当たる。と言うような意味を持っているらしい。不況の昨今である。元号だけでも前向きに行こうと言う訳だろうか?お偉い学者様達が考えそうなことだが、まあ悪くないではないか。
出典は1200年ほど前に我が国で書かれた古典作品らしい。見覚えのある題名だった。たしかに学生の頃に習ったはずだ。習ったとは言ってもテストに出るのは、作者名と、本のタイトル、書かれた年代ぐらいだ。実際にこの手の古典をしっかり読んでいる奴はどれぐらい居るのだろうか?当然、私は読んではいない。この手の古典をちゃんと読んでいるのはよっぽど歴史に興味がある奴か、国文学者ぐらいのものだろう。
古典と言うやつは、内容もそうだが、文章も解かり難い。古文は特に苦手な学科であり、学習は苦痛であった。学ぶ必要性があるのだろうか?
スピーカーが引用元の文章を読み上げている。
「ケレダモッテケレヨサンベエケエオーケンダ」
同じ日本語とは思えない。1000年も遡ると、同じ国であっても言語は変わっていくものなのだ。これだから今でも古文は苦手だ。
モニターに該当箇所の文章が映し出される。
文字で読んでもよくやっぱりわからない。内容の解説は、やはり学者に任せたらよい。こんな小難しそうな古典作品は読む気にならない。
出典 西暦1990年出版 ドラゴンボール20巻より
『カラダもってくれよ!!3 倍 界 王 拳 だっ!!!!!』
『倍王』
これが新しい元号だ。
「西暦3215年5月1日からは倍王元年です」
AIアナウンサーの元気な声が脳内に直接流れ込んできた。
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